大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

横浜地方裁判所 昭和33年(ヨ)771号 決定

申請人 楠留吉 外九名

被申請人 三和電機工業株式会社

主文

被申請人が昭和三十三年十一月二十五日申請人楠、同伊藤、同新倉、同竹田、同古川、同蘇武、同浜田、同志村に対してなした解雇の意思表示の効力は、仮りにこれを停止する。

申請人今野、同小林の申請はいずれもこれを却下する。

申請費用中、申請人今野、同小林と被申請人との間に生じた分は同申請人らの負担とし、その余の申請人と被申請人との間に生じた分は被申請人の負担とする。

(注、無保証)

理由

第一、当事者の申立

申請人等代理人は「被申請人が、昭和三十三年十一月二十五日申請人等に対しなした解雇の意思表示の効力は仮りにこれを停止する」との仮処分命令を求め、被申請人等代理人は「申請人等の申請を却下する」との裁判を求めた。

第二、当裁判所の判断

当事者間に争のない事実及び当事者双方の提出にかかる疎明資料により当裁判所が認定した事実並びにこれに基く当裁判所の判断は次のとおりである。

一、被申請人は横浜市西区平沼町五丁目百六十四番地において本店及び工場を、大阪市において工場を有し、電車モーター、トランスの修理工事等を営業目的とする資本金百八十万円の株式会社であつて、「従業員就業規則」(疎乙第一号証)と題する有効な就業規則を有し、申請人等はいずれも被申請人に雇傭され、仕上工、旋盤工としての職務に従事し、且つ被申請人の従業員三十四名中二十七名をもつて結成する全国金属労働組合神奈川地方本部三和電機支部(以下組合と略称する)の組合員にして申請人楠は執行委員長、申請人今野、同小林はいずれも副委員長、申請人伊藤は書記長、申請人新倉、同竹田、同古川、同浜田はそれぞれ執行委員、申請人蘇武は会計監査、申請人志村は青年部書記長の各役職に就いていたものであるところ、被申請人は昭和三十三年十一月二十五日別紙記載の理由をもつて申請人等に対し懲戒解雇する旨の意思表示をなした。その後被申請人は昭和三十四年六月二十一日の株式総会の決議により、同年七月六日解散し、同月十日その旨登記を了した。

二、別紙記載の懲戒解雇理由となつた事実の発生した昭和三十三年十月二十八日頃までの間の事態の経緯について

申請人等を含む被申請人の従業員は昭和三十三年七月二十六日労働組合を結成し、総同盟に加入し、総同盟神奈川金属労働組合三和電機支部と称していたところ、被申請人は同年八月二十五日会社再建の必要上、企業整理を理由に組合員十数名を解雇した。これに対し組合は総同盟を脱退し、全国金属労働組合に加入し、右解雇を撤回させるべく、被申請人と折衝を重ねた結果、被申請人は同年九月五日右解雇を全面的に撤回したうえ、今後人員整理を条件とする会社再建は行わないこと及び組合との団体交渉により、労働協約を速かに締結し、就業規則は組合と協議のうえ作成すること等を組合に約した。その後被申請人と組合は就業規則の作成労働協約の締結等につき交渉したがまとまらず、又台風のあつた同年九月二十八日の就業時間短縮による振替作業と残業命令に関し意見の対立があつたところ、組合は同年十月一日被申請人に対し、同年九月にさかのぼつて従業員の日給額を二十パーセント昇給することを要求して団体交渉を申し入れたのに対し、被申請人から文書をもつて昇給不可能の旨回答があり、なお同月四日から団体交渉に入つたが、被申請人は依然として経営不振を理由に昇給要求に応ぜず、更に同月六日も団体交渉を継続することになつていたが、双方の間で組合の団体交渉の出席者につき、被申請人は組合三役のみを組合は組合役員全員を主張して対立して居り、組合から被申請人に対し、同月四日組合の要求するとおり団体交渉がもてなければ、今後におけるあらゆる事態に対して組合は責任をもたず、あくまで被申請人の責任である旨申し入れたので、被申請人は同月五日夜組合に無断で同工場内にあつた納期を同月十一日に控えた国鉄発注の製品、半製品、工具、計器類その他原材料を被申請人の大阪工場へ向け搬出してしまい、その後もなお受注した製品につき搬出の気配をみせていた。このため組合としてはかねて経営不振をきかされて居り、又当時被申請人の横浜工場に余り仕事もなかつたことから被申請人がこのまま受注しないで横浜工場を閉鎖するのではないかとの不安の念をいだき、被申請人に今後は組合と話合のうえ製品を搬出するよう申入をなし、同月二十五日被申請人はこれに対し承諾はしなかつたが口頭でなるべく協力するとの態度を表明した。

三、そこで以下順次被申請人が主張する申請人に対する懲戒解雇理由たる事実の存否につき判断するとともに、右事実が被申請人の従業員就業規則第五十七条各号の懲戒事由に該当するかどうかを検討する。

(1)  解雇理由(1)については、昭和三十三年十月九日午後八時頃織田が当直のため被申請人会社の食堂に保管してある会社備品の当直用寝具を応接室に移そうとした際食堂に居合わせた申請人今野、同小林、同古川、同新倉が同人からこれを奪い取り、持出を妨害し、申請人今野は食卓の上に上つて同人に対して「やるならやつてやろうか」と申し向けた事実は疎明があり、織田は当直のため寝具を持ち出そうとしたのであるから業務行為と解すべく、従つて同申請人等の行為は、第二号(被申請人の従業員就業規則第五十七条第二号の意、以下これに準ずる)の「他の従業員の業務を妨げたとき」に該当する。

(2)  解雇理由(2)については、申請人今野、同小林が組合員約二十名を呼び集めたとの点を除き、その余の事実は疎明があるものと認められる。被申請人主張のように組合員約二十名が集り、口々に「渡すな、渡すな」と叫んで増山工場長代理を取り囲んだ事実は一応認められるが、申請人今野、同小林が右組合員等を呼び集めたと認めるに足る疎明はない。而して右申請人両名が翌二十九日被申請人から該コイル返還の要求を受けたのにかかわらずこれに応じなかつたことは後記(4)説明のとおりであつて、右申請人両名の以上の行為は共謀にかかるものと認められるが、申請人今野が、該コイルを社外に持ち出し、又は持ち出そうとしたとの疎明はないから右申請人両名のコイルを持ち去り、隠匿して返還に応じなかつた行為は第六号の「事業上の重要な物品を社外に持ち出し又は持ち出そうとしたとき」に準ずる程度のものとして第九号に該当するものというべきである。

(3)  解雇理由(3)については、申請人今野、同古川、同新倉、同浜田が組合員約二十名を呼び集めて約二十分間にわたつて職場離脱による作業放棄をなさしめたとの点を除き、その余の事実につき疎明があつたものと認められる。被申請人主張のように就業中の組合員約二十名が集り、松木社長及び増山工場長代理の食堂入室を妨げた事実は認められるが、申請人等が、右組合員を呼び集めたと認めるに足る疎明はない。そして松木及び増山は申請人今野によつて持ち去られた解雇理由(2)記載のコイルの所在を求めて二階に赴き、食堂に入室しようとした際、申請人等の阻止にあつたものと一応認められるのである。而して同申請人等の行為は「他の従業員の業務を妨げたもの」として第二号に該当する。

(4)  解雇理由(4)については、被申請人主張のように、被申請人が、申請人今野、同小林の両名に通告をなしたところ、これを意外に思つた申請人両名を含む組合員多数が、会社事務室へ来り、総務担当の松本力のもとに赴いた事実及びコイルの返還に応じなかつた事実は認められるが、組合員を指揮したうえ、松本を取り囲んで威嚇し、勤務時間中であるのに約二十二分間にわたつて職場離脱をさせたとの事実はこれを認めるに足る疎明はない。従つて被申請人主張のような懲戒事由はないものというべきである。

(5)  解雇理由(5)については、増山が被申請人主張のような作業を申請人今野に命じたが、同申請人はたまたま旋盤の具合が悪かつたので無断でこれを分解し、修理したところ、増山から再三これを組み立てて作業をするようにいわれながらもその指示の都度組立にあたるのみでその他の時間は十分に作業をせず、漸く夕方に至りその組立を完了し、結局その日は増山から命ぜられた作業をしなかつた事実が疎明される。同申請人の右の行為は命ぜられた作業を怠けたものであつて作業能率を低下させた点において「他人の業務を妨げ」た場合(第二号)に準ずる程度のものとして第九号に該当するものというべきである。

(6)  解雇理由(6)については、いずれも疎明がない。尤も八木が増山工場長代理から被申請人主張のような作業を命ぜられた際、同人がその作業のため旋盤を使用すると後で今野にやかましくいわれるといつた事実、八木が増山に命ぜられた作業に従事中、同人に対し申請人小林、同蘇武の両名が「明日今野が出てくるとひどい目にあうぞ」と小声でいつた事実及び「やるならやるで仕方がないがなるべくやらないようにしろ」といつた事実は一応認めることができるが、右の事実から直ちに同申請人等につき、被申請人主張のような事実を認めることはできない。

(7)  解雇理由(7)については、昭和三十三年十一月十二日被申請人側織田秀男、組合側申請人今野、同小林、同竹田、同古川の間で午前九時頃から約十時間にわたつて団体交渉が行われた事実は認められるが、その際同申請人等に被申請人主張のような事実があつたことについてはこれを認めるに足る疎明がない。尤も被審人松木東吾が僅かにこれにそうが如き供述をなしているが、これのみをもつてしては到底疎明があつたものとは認めがたい。

(8)  解雇理由(8)については、全部疎明があるものと認められる。従つて申請人古川、同竹田の行為は他の従業員の業務を妨害したものとして第二号に該当する。

(9)  解雇理由(9)については、組合が被申請人主張のような申入を受けたことの疎明はあるが、これを拒否した事実及び申請人楠、同伊藤、同小林がこれを企図し指導した事実はいずれもこれを認めるに足る疎明はない。

(10)  解雇理由(10)については、申請人今野が組合員を呼び集めたとの点を除き、その余の事実につき疎明があるものと認められる。組合員約十二、三名が集り、電動機搬出の妨害をした事実は一応認められるが、申請人今野がこれを呼び集めたと認めるに足る疎明はない。従つて申請人今野、同蘇武の行為はいずれも他の従業員の業務を妨害したものとして第二号に該当する。

(11)  解雇理由(11)については、申請人伊藤が製品の乾燥が不十分であつたため搬出を二、三日待つよう増山工場長代理にいつたところ、同人がこれを諒承し、同日の搬出を見合わせた事実が一応認められ、申請人伊藤はじめ組合員殆ど全員が増山を取り囲んで搬出を妨害したとの事実及び申請人楠、同伊藤、同小林がこれを企図指導した事実はこれを認めるに足る疎明がない。

(12)  解雇理由(12)については被申請人主張のような申入が申請人楠、同伊藤に対してなされ、組合がこれを拒否したとの事実は一応認められるが他方該電動機は組合員によつて同日昼頃発注先に納入されていることが疎明されるので結局被申請人主張のような懲戒事由は存しないものというべきである。

(13)  解雇理由(13)については全部疎明がない。

(14)  解雇理由(14)については申請人楠、同伊藤、同小林が、被申請人主張の各行為を企図し指導したとの点についてはこれを認めるに足る疎明がない。申請人伊藤が解雇理由(11)、(13)(イ)を同小林がその(1)、(2)、(4)、(6)、(7)を、それぞれ実行したとの点についての判断はすでに述べたとおりである。

(15)  解雇理由(15)については疎明がない。

(16)  解雇理由(16)については、申請人楠が増山工場長代理から被申請人主張のような作業を命ぜられた事実及び多少能率を落して右作業に従事した事実は一応認められるが、被申請人主張のように終日作業をしなかつたものと認めるに足る疎明はない。そして申請人楠の右の行為は未だ被申請人主張のような懲戒事由にあたらないものというべきである。

(17)  解雇理由(17)については、申請人浜田が錦織に対して安全作業をせよと指示した事実は疎明されるか、それが被申請人主張のように会社指示に反してテーピング作業をせぬよう慫慂したことを意味するか、どうかについてはこれを認めるに足る疎明がない。

(18)  解雇理由(18)(イ)については全部疎明があるものと認められ、申請人志村のこの行為は職場秩序を乱すものとして第三号に該当するものと解せられる。解雇理由(18)(ロ)についても全部疎明があるものと認められるが、同申請人が砂山、中島の業務を妨害したと認めるに足る疎明はない。

四、而して被申請人の従業員就業規則第五十七条によれば「右の各号に該当するときは懲戒解雇する。但し情状によつて昇給停止又は減給にとめることができる」と規定され、従業員において同条各号にふれる行為があつても必ず懲戒解雇されるとは限らず、むしろ、従業員においてたとえ右各懲戒事由に該当する行為があつたとしても、それが被申請人と従業員との間の雇傭契約上の信頼関係を裏切り、到底これを維持し得ない程度のものと認められる場合を除いては懲戒解雇は許されず、この程度に達しない些細な事実をとらえて直ちに懲戒解雇することは解雇権の濫用であつて、解雇としての効果を生じないものと解するのが相当である。そこで前示従業員就業規則第五十七条各号に該当するものと疎明の認められる事実が、果して懲戒解雇に値する程度のものであるかどうかについて各申請人ごとに検討をすすめることとする。

(1)  申請人今野、同小林について

先づ、右両名の解雇理由(2)の国鉄吹田工場発注のコイル搬出妨害の行為について検討すると、申請人等は被申請人は製品の搬出については組合と話合のうえ、行う協定になつていたのに、被申請人が組合に無断でかかる搬出の挙に出たので、右申請人両名はじめ組合員がこれを阻止した旨主張するが、すでに述べた如く、かかる協定についての疎明はなく、被申請人は組合からそのような申入を受けた際、今後なるべく組合のいうように協力する旨回答したに過ぎず、従業員である組合員としては使用者である被申請人の製品搬出を妨害することは許されないものといわなければならない。更にこのコイル搬出にあたつては当日午前中女子従業員浜田、錦織等も右コイルを二階から階下へ運搬し、その箱詰を手伝つて居り、被申請人としても特に組合に内密に無断で搬出しようとしたものでないことが一応認められるのである。そして増山がコイルの箱に釘打をし繩を掛けている際、同所を通りかかつた申請人今野が、コイルが大阪へ発送されるものであることを聞くや、話合がつくまでと称して単に搬出を阻止したにとどまらず、会社の工場の二階へ持ち去り、隠匿して自己の支配下におき、申請人小林も、申請人今野と意思を相通じて、同申請人からコイルを取り返そうとする増山に対し身をもつて妨害し、その結果同申請人をしてコイルを奪取隠匿させたうえ、申請人両名は被申請人からのコイル返還の要求にも応ずることなく、コイルの納期である昭和三十三年十一月五日をはるかに過ぎた同月二十日頃まで何等の権限なくこれを自己の支配下においた後、漸く返還したことが疎明され、右の行為は第九号の懲戒事由として情状の重いものというべきである。右のほか、申請人今野は解雇理由(1)、(3)、(5)、(10)の各行為を、申請人小林は(1)の各行為をなし、申請人両名の右諸行為の集積は、被申請人との間の雇傭契約上の信頼関係を破壊し、到底これを維持し得ない程度に達したものと認めるのが相当である。一方申請人が申請人両名を解雇するにあたり、申請人等が主張するように申請人両名が正当な組合活動をしたことが決定的な動機となつたものと認めるに足る疎明もない。従つて被申請人が昭和三十三年十一月二十五日右申請人両名に対してなした解雇の意思表示は有効なものといわなければならない。

(2)  その余の申請人について

申請人伊藤、同楠についての解雇理由はいずれも疎明がなく、申請人新倉についてはその(1)、(3)、同竹田についてはその(8)、同古川についてはその(1)、(3)、(8)、同蘇武についてはその(10)、同浜田についてはその(3)、同志村についてはその(18)の(イ)についていずれも疎明があつたものと認められるところ、申請人新倉、同浜田、同志村の右各行為は懲戒事由に該当するとはいえ申請人らがなした行為は二において認定した状況の下においては、いずれも雇傭契約上の信頼関係を破壊する程度に達するものとは認めがたく、解雇理由の疎明のない申請人伊藤、同楠とともに右各申請人に対してなされた被申請人の昭和三十三年十一月二十五日の解雇の意思表示はその効力を生じないものといわなければならない。

次に申請人竹田、同古川、同蘇武はいずれも被申請人の製品搬出の妨害にあたり、情状軽からぬものがあるが、反面国鉄吹田工場発注のコイル(解雇理由(1))の場合と異り、単に搬出妨害にとどまり、特にこれを奪取し、隠匿した事実については疎明がなく、又右申請人等のなした行為は二において認定した状況のもとに会社の製品搬出を組合と話合の上で行うように仕向けるための組合の方針にそつて、一部の者の指導により従属的な立場でなされたものであること及び組合結成後間もないためにその運営方法において熟練していないこと等を考慮すれば、右申請人三名に対する疎明のある解雇理由の程度をもつてしては未だ雇傭契約上の信頼関係を極度に破壊するに至つたものとは一概に認めがたい。従つて右各申請人に対してなされた被申請人の昭和三十三年十一月二十五日の解雇の意思表示はその効力を生じないものと解するのを相当とする。

しかるに右申請人楠、同伊藤、同新倉、同竹田、同古川、同蘇武、同浜田、同志村については被申請人の前示解雇の意思表示により被申請人の従業員たる地位を否定されることになると生計の途を失い、本案判決の確定を待つては回復できない著しい損害を受けることは疎明により、これを認めることができる。なお被申請人はその後解散したが、現在清算の段階にあり、清算目的の範囲内で法人として存続するものとみなされるのであるから、右各申請人について従業員たる地位を仮りに定める利益は依然存するものといわなければならない。

五、よつて申請人今野、同小林の仮処分命令申請についてはいずれも被保全権利の疎明がなく、申請の如き仮処分をするのを相当と認めないからいずれもこれを却下し、その余の申請人の仮処分命令申請については相当と認めてこれを認容し、申請費用の負担について民事訴訟法第八十九条第九十三条第一項本文を適用して主文のとおり決定する。

(裁判官 久利馨 石田実 松野嘉貞)

(別紙)

被申請人の主張する申請人等に対する懲戒解雇理由

(1) 昭和三十三年十月九日被申請人が職員織田秀男をブリヂストンタイヤ株式会社から受注した三百馬力モーターの仕上、乾燥の監視のため宿直させた際、同日午後八時頃同人が仮睡のため被申請人会社の食堂に保管してある会社備品の宿直用寝具を応接室に移そうとしたところ、食堂に居合わせた申請人小林、同古川、同新倉は同人を取り囲みこれを奪い取り、同人が再びこれを持ち出そうとするや、申請人今野は突如食卓に上つて同人に対し「やるならやつてやろうか」等と怒鳴り散らし、今にも殴らんばかりに腕を振りあげて威嚇し、同人の寝具持出を妨害した。右の行為は他の従業員に暴行脅迫を加え、その業務を妨害したものであつて就業規則第五十七条第二号、第九号に該当する。

(2) 同月二十八日午後一時三十分頃被申請人が日本国有鉄道吹田工場から受注した二キロワツト電動発電機励砕機用コイルを作業場において、同工場に発送するため梱包し終ろうとしたとき、申請人今野は矢庭にこれを奪取し、持ち去ろうとしたので工場長代理増山茂が奪回しようとしたところ、申請人小林が同人を前方より抱きとめるとともに約二十名の組合員を呼び集め、同所に集合した組合員は口々に「渡すな」「渡すな」と叫んで同人を包囲し、遂に申請人今野は他に持ち去りこれを隠匿した。右の行為は事実上重要な物品を持ち出し、隠匿したものであつて就業規則第五十七条第六号、第九号に該当する。

(3) 同日午後二時頃社長松木東吾が増山工場長代理とともに二階テーピング作業場に赴き、隣室の食堂に入ろうとするや、申請人今野、同古川同新倉はその前方に立ち塞がり、申請人浜田は食堂入口の扉に施錠してその入室を阻止したうえ、就業中の組合員約二十名を呼び集めて松木社長及び増山工場長代理を取り囲み、口々に罵り、同組合員等をして約二十分間にわたつて職場離脱による作業放棄をなさしめた。右の行為は被申請人の業務を妨害するとともに、職場秩序を紊乱したものであつて就業規則第五十七条第二号、第三号、第九号に該当する。

(4) 同月二十九日午前十一時頃被申請人が申請人今野、同小林の両名に対して前記物品の返還を求め、これに応じないときは厳重処分する旨通告したところ、右両名は同日午前十一時十七分組合員約二十名を指揮して被申請人会社事務所に殺到し、同日午前十一時四十九分に至るまで総務担当松本力を取り囲り、暴言をはいて威嚇し、その返還に応じないのみならず、勤務時間中であるのに三十二分間にわたつて職場離脱による作業放棄をなさしめた。右の行為は前同様、就業規則第五十七条第二号、第三号、第九号に該当する。

(5) 同年十一月八日午前九時頃増山工場長代理が、申請人今野に対して、上信電気鉄道株式会社より受注した電動子の整流子面削正の作業を命じたところ、今野は午前十一時にいたるも右作業に従事せず、旋盤に故障を生じたから分解したと称して被申請人に無断でこれを解体放置した。同日午後にいたり、増山は右旋盤を至急組立てて作業するように三度にわたつて指示したが、その都度約十五分位、合計約四、五十分位働いたのみで、その他の時間は全く作業を怠け旋盤も夕方になつて漸く組立を完了した。右の行為は自己の作業を故意に怠業したものであつて就業規則第五十七条第二号、第九号に該当する。

(6) 同月十日申請人今野は欠勤したが、朝休暇の手続をとるため一応出社した。その際申請人小林、同蘇武に対して被申請人から前記電動子の作業を命ぜられても、これに従つて作業しないよう指示した。増山工場長代理は同日朝右電動子作業を旋盤工の八木務に命じ、同人がこれに従つて、作業に従事していたところ、午前十時頃小林、蘇武両名は右旋盤を再度解体しようとしたが、八木に阻止されたので、同人に対し極力作業中止を慫慂したが、同人はこれをしりぞけ作業を完了した。右の行為は他の従業員の業務を妨害したものであつて就業規則第五十七条第二号、第九号に該当する。

(7) 同月十二日午前九時から被申請人会社応接室において会社側織田秀男、組合側申請人今野、同小林、同竹田、同古川を交渉委員として団体交渉を開催したところ、申請人四名は被申請人の回答を不満として織田秀男に対し交々脅迫的言辞を弄し、遂には組合員の口述するとおり、会社回答書の作成を迫つたので午後七時にいたり、織田はすでに交渉十時間に及んだことでもあり、翌日社長の出社を待つて再開することにして当日の団体交渉の打切を申し出て退場しようとしたところ申請人今野、同古川の両名は応接室出入口の扉に椅子を寄りそえてこれに腰掛けて同人の退出を妨げ、約一時間にわたつて同人を軟禁した。午後八時三十分にいたり、同人は最後の脱出を試み、申請人四名と揉み合ううちに、扉の硝子が破壊され申請人今野等が一瞬ひるんだすきに同所を脱出することができた。右の行為は他の従業員に対して暴行脅迫を加えその業務を妨害したものであつて就業規則第五十七条第二号、第九号に該当する。

(8) 同日午前十時三十分頃被申請人が日本硝子株式会社横浜工場から受注したハード・フオード・フインタン用部分一式その他の修理を完了し、同会社の村上機械担当者の検収を終つたので根本泰夫が納品のため集積したところ、組合員湯川賛平がこれを奪取し申請人古川、同竹田は集積場所への運搬を阻止して搬出を妨害した。右の行為は被申請人の業務を妨害するものであつて就業規則第五十七条第二号、第九号に該当する。

(9) 同月十五日午後一時三十分頃再び日本硝子株式会社の総務課長代理神山博外二名が来社し、増山工場長代理を通じて組合三役に対し、前記製品の搬出の妨害をせぬよう申し入れたが組合によつて拒否された。これは申請人楠、同伊藤、同小林が企図、指導したものである。右の行為は前同様就業規則第五十七条第二号、第九号に該当する。

(10) 同月十七日午前九時頃被申請人が昭和電工株式会社横浜工場から受注した電動機十馬力一台、六馬力一台、三馬力一台合計三台を納品のため、作業場から搬出しようとするや、申請人今野は被申請人の指示に反し組合員渋谷功一に命じて作業場入口大戸の扉を一つ閉ざして施錠せしめ、組合員約二十名を呼び集めてその前方に立ち塞がらしめ、申請人蘇武は大戸の他の扉を閉し、その前方に数台の作業台を並べて障害物とし右製品の搬出を妨害した。右の行為は被申請人の業務を妨害するとともに、職場秩序を紊乱したもので就業規則第五十七条第二号、第三号、第九号に該当する。

(11) 同月二十日前記上信電気鉄道株式会社から受注した製品の修理が漸く完了したので増山工場長代理が納入のため搬出の準備にかかつたところ、申請人伊藤をはじめとして組合員殆ど全員が同人を取り囲み妨害したため搬出不能に終つた。これは申請人楠、同伊藤、同小林が企図指導したものである。右の行為は被申請人の業務を妨害したもので就業規則第五十七条第二号、第九号に該当する。

(12) 同日午前九時頃被申請人が昭和石油株式会社から受注した六馬力電動機の修理を完成したので、これを搬出しようとして増山工場長代理から申請人楠、同伊藤に対し搬出の妨害を行わぬよう申し入れたが、組合によつて拒否されたので搬出を見合わせざるを得なかつた。これは申請人楠、同伊藤、同小林が企図指導したものである。右の行為は前同様就業規則第五十七条第二号、第九号に該当する。

(13) 同月二十二日夜

(イ) 申請人伊藤、同竹田は作業場の天井を走行している二屯電動クレーンを電気系統機能部分を破壊して作動不能状態に陥らしめ

(ロ) 申請人竹田、同新倉、同志村は天井を走行する三屯手動ホイストを取付場所からはずして隠匿し使用不能ならしめ

(ハ) 申請人志村、同蘇武は作業場にあつた一、五屯ヒツバラーを破壊し使用不能に陥らしめて現場に放置した

右の行為はいずれも就業規則第五十七条第九号に該当する。

(14) 申請人楠、同伊藤、同小林は前記(1)ないし(8)、(10)、(13)及び(16)後記の各行為を企図し、指導して行わしめ、或は自ら行つたものである。

(15) 申請人今野は前記(13)の各行為を申請人楠、同伊藤、同小林と共に企図し指導して行わしめたものである。

(16) 申請人楠は同月十二日増山工場長代理から前記上信電気鉄道株式会社から受注した製品のバインド掛を指示されたがこれに従わず、終日その作業を行わなかつた。右の行為は職務上の指示に不当に反抗して作業を行わなかつたもので就業規則第五十七条第三号、第九号に該当する。

(17) 申請人浜田は同年十月二十六日職場において錦織ふで外五名に対し、被申請人の指示に反して作業をせぬよう慫慂してその作業を妨害した。右の行為は被申請人の業務の執行及び他の従業員の業務を妨害したもので就業規則第五十七条第二号、第三号、第九号に該当する。

(18) 申請人志村は

(イ) 同月十四日午後二時頃職場において流行歌を高唱していたので増山工場長代理が注意を与えたにもかかわらず、同月二十六日午前九時頃職場において口笛を吹き、棒切をもつて拍子をとりながらジヤズを歌つていたので重ねて増山は注意を与えた。

(ロ) 同年十一月十一日午前十一時三十分頃勤務時間中であるのに、従業員砂山弘治、中島正治の両名に対し組合活動に熱心でないと詰問し罵声を浴びせた。

これらの行為は被申請人の注意に反して職場秩序を紊乱し、或は他の従業員の業務を妨害したもので就業規則第五十七条第二号、第三号、第九号に該当する。

【参考資料】

就業規則第五十七条

左の各号の一に該当するときは懲戒解雇する

但し情状によつて昇給停止又は、減給に止めることがある。

一、正当な理由なしに無断欠勤連続二十日以上に及んだとき

二、他の従業員に対し暴行脅迫を加へ又はその業務を妨げたとき

三、職務上の指示に不当に反抗し職場の秩序を紊したとき

四、業務上重要な経歴を詐りその他詐術を用いて雇入れたとき

五、会社の承認を得ないで在籍のまま他に雇入れられたとき

六、事業上の重要な物品又は研究資料を社外に持出し又は持出そうとしたとき

七、職務に関し不当に金品その他を受け取り又は与えたとき

八、数回懲戒訓戒をうけたに拘らず尚改悛の見込みがないとき

九、その他前号各号に準ずる程度の不都合な行為があつたとき

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例